介護の仕事では利用者・入居者と信頼関係を築くためにはコミュニケーションがとても重要になってきます。よって、コミュニケーション能力は介護士にとって必須のスキルになります。しかし、利用者・入居者とコミュニケーションがうまくとれずに悩む介護士は少なくありません。
この記事では利用者・入居者とコミュニケーションを上手くとるためのコツや注意点、役立つスキルなどを解説していきます。
1.介護現場におけるコミュニケーションの重要性
コミュニケーションとは、自分の意見や感情、考え、思いなどを会話や文字、身振り、手振りなどを交えて伝え合うことです。介護現場では利用者・入居者の聴覚、視覚、言語能力の低下や認知症などによりコミュニケーションが上手くとれないことがよくあります。
利用者・入居者とのコミュニケーションが上手くとれないことで誤解などを招き、不信感を募らせる原因などに繋がることもあります。利用者・入居者に不信感を持たれ、信頼関係を築くことが出来なければ、介助拒否をされることが増えてきます。また、認知症の人の場合、双方の意思疎通がうまくできないために適切な声掛けや対応、介助ができず認知症の人の不安やストレスを与えてしまい、認知症を悪化させてしまう場合もあります。
このようにコミュニケーションは利用者・入居者との信頼関係を築き、利用者・入居者に寄り添った対応や介助をするためには大切なスキルとなってきます。
2.コミュニケーションの種類
コミュニケーションといえば、おしゃべりすることを思い浮かべる人が多いと思いますが、コミュニケーションには「言語コミュニケーション」と「非言語コミュニケーション」があります。コミュニケーションをとる上で「言語コミュニケーション」と「非言語コミュニケーション」をうまく使う必要があります。
2.1 言語的コミュニケーション
言語的コミュニケーションはバーバルコミュニケーションとも呼ばれ、意見や感情、考え、思いなどを言葉や文字などを使って意思疎通をする方法です。
2.2 非言語的コミュニケーション
非言語的コミュニケーションはノンバーバルコミュニケーションとも呼ばれ、言語や言葉以外の方法で意思疎通を行います。表情や顔色、声の大きさ・トーン、身振り、手振り、距離感、視線、姿勢などを使って表現します。
メラビアンの法則によると相手に与える印象として
- 視覚情報(見た目・身だしなみ・しぐさ・表情・視線)・・・55%
- 聴覚情報(声の高低・速さ・大きさ・テンポ)・・・38%
- 言語情報(話す言語そのものの意味)・・・7%
となっており、非言語的な要素で相手の印象が約9割決まってしまうといわれています。よって、相手とコミュニケーションをとるときは、笑顔や身振り、手振、相手の話にうなずくなどを交えるとより効果的です。
3.コミュニケーションのポイント、コツ
コミュニケーションの重要性は分かったけど、実際にどのようにコミュニケーションをとればよいのか分からない人も少なくないと思います。ここでは、利用者・入居者とコミュニケーションをする際に役に立つポイントなどについて解説します。
3.1 挨拶をする
挨拶はコミュニケーションの基本です。介護の現場に限らずどの世界でも挨拶は大切です。
利用者・入居者との相性で話しかけにくい人もおられるかもしれませんが、最低限挨拶はしましょう。利用者・入居者は意外と介護士などの職員をよく見ています。「あの人には挨拶をしたけど、私にはしなかった」と言われることがないように気を付けてください。
3.2 相手を観察する
利用者・入居者の中には遠慮してしまい、話されることと本心が違う場合があります。また、認知機能の低下により自分の意思を上手く伝えられない人もおられます。
相手の本心や望んでいることを読み取るには相手の表情や行動などを注意深く観察する必要がありますが、相手の本心を読み取るには経験が必要になり、ベテランの介護士でも苦労することがあります。
また、認知症の人は現在どのような状況かを観察する必要もあります。不穏や興奮状態の時に、無理に話しかけるとより興奮することがあります。しばらく見守っておいて、落ち着いてから話しかけた方がよい場合もあります。
3.3 目を見て話す
相手に話しかける時は、同じ目線で目を見て話すことが重要です。同じ目線で目を見て話すことで相手に対して平等であり、関心を持っているという意思を伝えることができます。ただし、あまり顔を近づけすぎると不快感を与える可能性もあるので、適度な距離を保ちましょう。
また、相手に話しかけるときは後などの死角から急に声をかけることはNGです。自分自身の存在を相手が認識してから話しかけましょう。
3.4 聞き上手になる
コミュニケーションの基本となるのが「聞くこと」といわれています。特に介護の現場では「聞き上手であれ」とも言われています。
3.4.1 傾聴
傾聴とは相手の言うことに耳を傾け、話を聞くことをいいます。傾聴は相手の話をただ聞くだけでなく、表情や声のトーンなどにも注意し、相手に寄り添いながら聞くことが重要です。真剣に話を聞いていなければ、相手にも伝わってしまい話をする気が失せてしまいます。適度に相槌を打ったり、共感することが必要です。
3.4.2 受容
受容とは相手を否定したり非難することはせずに、相手の状況をありのままに受け入れることをいいます。
認知症の人の中には、理解しがたい行動をとったり、支離滅裂なことを言われる人もおられます。そうした方でも頭ごなしに非難や否定はぜず、そのまま受け入れることが重要です。そして、「なぜそのような行動をとったのか」「どんな理由があるのか」を冷静に考えることが大切です。
3.4.3 共感
介護施設の利用者・高齢者は年が離れており、考え方などでなかなか共感できない部分もあるかもしれませんが、否定や介護士の価値観などを押し付けることは避けましょう。
想像力を働かせ、相手の立場に立って話を受け入れて、「それは大変でしたね」や「それは良かったですね」と共感することが大切です。
共感することでより相手の気持ちに近づけるので、より深くコミュニケーションをするきっかけになります。
3.5 誠実な態度を常に心がける、相手を尊重する
利用者・入居者に対しては、出来る限り約束を破ることなどは避けましょう。介護士への不信感につながることがあります。また、見下したり、暴言を吐くなどといったことは論外です。当たり前のことですが自分がされたり、言われたらいやなことはしないようにしましょう。
3.6 低い声でゆっくり、口元が見えるように話しかける
高齢になると高音が聞き取りづらくなってきます。そのため、高齢者と話をする場合は声のトーンを低くしてゆっくり、口元が見えるように明確に話しかけましょう。ただし、大声で話すと怒られていると感じてしまう高齢者もおられるので注意が必要です。
3.7 笑顔を心がける
いつも笑顔な人は明るく魅力的で好印象を周りに与えます。また、相手に対して緊張感を和らげ敵意などが無いことも示します。円滑にコミュニケーションを進めるためには笑顔がとても大切になってきます。
その他、進行したアルツハイマー型認知症の方でも相手の気持ちを笑顔から読み取る能力は、最後まで衰えないといいます。
3.8 長い話をは避ける
認知機能が低下してくると話す内容がなかなか理解できないことがあります。そのため、話が長くなると話している内容が理解しにくくなってくるため要点をまとめて短く話をすることも重要です。
3.9 使える話題
どんな話題で話しかければ良いか悩む人も少なくないと思います。そうしたときは天気や季節、趣味、出身地、時事、昔話などを話題にしてみるのも良いでしょう。
例えば天気のことを話題にするときは「今日はいい天気ですねえ。」などといった内容で話しかけ「若いときは、休みで天気が良いときはどこかに出かけたりしていましたか」といった内容で話を広げていくのも1つの方法です。
ただし、自分のことをあまり話したがらない人もおられるので注意は必要です。
4.コミュニケーションの注意点
コミュニケーションをとる上でのポイントなどについて解説してきましたが、気を付けなければ利用者・入居者との信頼関係を壊してしまうことがあります。ここでは、コミュニケーションをとる上で注意すべき点について解説します。
4.1 相手を否定しない、叱らない
相手が話していることが間違っていてもすぐに否定するのではなく、一度聞き入れて、相手の気持ちに寄り添うことが大切です。
ただし、相手の話を否定しない、受け入れるといっても、すべての期待や要望に応える必要はなく、また、間違った要望などに応えることもできないため、「できないことはできない」と伝えることも必要です。ただし、この時も相手の想いや価値観を受け入れ共感した上で丁寧に断ることが重要です。
また、相手の言ったこと、行動したことに対して厳しく叱ると尊厳を傷つけられ、疎外感を感じ、適切な意思疎通が取れなくなる場合もあります。
4.2 赤ちゃん言葉、子ども扱いをしない
赤ちゃん言葉で話しかけることや子ども扱いすることは、相手に馬鹿にされているという不快感を与えることがあります。また、命令口調やタメ口も相手から見下されていると感じてしまう場合があります。相手に敬意を払い、誠実な態度で接することが重要です。
4.3 話した内容が相手に伝わっているのか、納得しているのかを確認する
聴覚や認知機能などが低下してくると、相手に話したことが充分に伝わっていない場合があります。特に認知症の人を介助する場合、相手に対して行うことをしっかり伝えずにどんどん介助を進めていくと不安感や不信感を与え、不穏な状態になることがあります。認知症の人を介助する場合は途中経過を説明しながら伝えたいことがしっかりと伝わり、納得しているのかを確認しながら進めていくと良いでしょう。
4.4 まくし立てたり、質問攻めにしない
早口でまくし立てるように話しかけられると話している内容がなかなか理解できず、混乱してしまうことがあります。また、介助している時などはせかされているように感じてしまうことがあります。
その他、質問攻めにすることは取り調べを受けているような印象を与え、不快感を与えてしまうことがあります。
4.5 相手を怒らせるようなことを言わない
相手を怒らせるような言動もNGです。「認知症だからどうせ覚えていないだろう」ということはありません。認知症の人はその時の物事などは忘れても、その時に感じた感情は長く残るといわれています。
例えば、ある介護士がある認知症の人を怒らせた場合、その認知症の人は自分を怒らせた内容は覚えていなくても、その介護士に対して受けた怒りの感情は残ります。このようになってしまうと信頼関係を築くことは困難になってしまいます。
5.コミュニケーションに役立つスキル
利用者・入居者とコミュニケーションをとる時に役立つスキルについて解説します。介護の現場以外でも役に立つスキルもあります。
5.1 閉ざされた質問と開かれた質問
閉ざされた質問とは「はい」や「いいえ」など一言で答えられる質問です。例えば「元気ですか」「何歳ですか」などといった質問です。一方、開かれた質問は「はい」や「いいえ」など一言では答えられない自由度のある質問です。例えば「〇〇についてどう思いますか」「なぜそのようにしたのですか」といった質問です。
利用者・入居者のことなどを知るために、序盤は閉ざされた質問をしていき、徐々に開かれた質問へ移っていくようにすることがよくあります。
5.2 繰り返し技法
利用者・入居者との会話をしているときに、相手の発言を繰り返しながら会話をすることを繰り返し技法といいます。ただ、相手の話すことに対して相槌を打つだけより、相手は自分に対して「話を聞いてくれている」、「話したいこと、理解してほしいことが伝わっている」といったように感じやすくなります。
例としては「今日はいい天気だなあ」と言われたら「今日はいい天気ですね」というように同じことを繰り返したりします。
ただし、単純に相手の発言を繰り返せばいいというわけでなく、相手の気持ちに寄り添いながら、重要な言葉を見極めてその言葉を繰り返すようにしましょう。例えば「昨日は部屋の電気を切り忘れて、息子に怒られた。悲しかった」と言われたら「怒られましたか。それは悲しかったですね」といったように返します。
5.3 ミラーリング
ミラーリングとは相手の動きを鏡で映したときと同じような動きをしたり、同じ姿勢をとることをいいます。同じような姿勢や表情、動きをとることにより相手に親近感や安心感、共感を得ることが出来ます。ただし、わざとらしくならないように気を付ける必要があります。
5.4 マッチング
マッチングとは相手の声のトーンやテンポ、大きさ、リズムを合わせることをいいます。相手のペースに合わせることでコミュニケーションがスムーズになります。
また、相手とは逆のことをあえてする場合もあります。興奮したり感情的になったりして早口で話している人に対して、逆にゆっくりと落ち着いた口調で話をして、相手の話すことに対して繰り返し技法で対応していきます。こうすることで落ち着きを取り戻していくことがあります。相手にこちらのペースに合わせてもらうようにも活用出来ます。
まとめ
コミュニケーション能力はどの業種でも必要なスキルになりますが、介護の現場では特に重要なスキルになります。しかし、介護士でも利用者・入居者とのコミュニケーションで苦労する人は少なくありません。コミュニケーション能力はなかなか簡単には上がりませんが、経験を積んで徐々に上げていくことが大切です。利用者・入居者とのコミュニケーションに悩む介護士にこの記事が少しでも役に立てれば幸いです。
参考サイト
- 福祉用語の基礎知識-ハートクリニック
- 詳しく解説!介護のコミュニケーションで大切なこととは!?-介護求人・転職なら介護求人情報サイト|介護ワーカー
- 【簡単にわかる】ユマニチュードとは?5つのステップと認知症ケアの効果を解説-【選べる働き方】介護業界の求人・転職は「みんなの介護求人」
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